オリーブの森で語り合う

ふと、横浜のみなとみらいで見た言葉を思い出した。吹き抜けのビル、エスカレーターで登りながら読む黒い壁に白く浮かぶ文字。ドイツ語とその和訳。
調べてみるとフリードリヒ・フォン・シラー(Friedrich von Schiller)の手紙からの言葉との事だった。
樹のイメージだけが残っているのは吹き抜けのビルの光とそこにはない木漏れ陽の光がどこかでオーバーラップしたからかもしれない。

オリーブの樹を植えたいと思う。
子供の頃、初めて徹夜して読んだ本は「はてしない物語」だった。二段ベッドの上、懐中電灯を布団の中に持ち込んで。
10歳の時のこと。
あんなに美しい装丁の本を手に取ったのも初めてだった。あかがね色の絹、動かすとほのかに光る。
夢中になって文字を、物語を、追いかけた。

その後「はてしない物語」を書いたミヒャエル・エンデ(Michael Ende)の本を、ねだっては買ってもらった。
「モモ」「サーカス物語」「鏡のなかの鏡」。
そのエンデに関わる本に「オリーブの森で語り合う」(Phantasie, Kultur, Politik. Protokoll eines Gesprächs)という会話録がある。
子供だった私には内容はまだ難しく。題名のオリーブの森の印象だけが残った。
少し暗いぐらいの森、その中に柔らかく木漏れ陽が降る場所がある。ふかふかとした大地。腰をおろして時間を忘れて話をする。そこに居る人間としかできない会話を思慮深く穏やかに、しかし熱情を持って。

森は無理でも樹ぐらいなら植えれるかもしれない。
本にまつわる場所へ。

写真はオリーブの樹ではないけれど、大好きだった樹。大好きだった場所。今はもう切り倒されてしまった。
そんな風に生きるために私たちは簡単に失っていく。
今、私はそれを悪い事とは思わない。そしてだからこそ、大好きなものを大切に作っていきたい。