海炭市叙景

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Bessaflex TM + CARL ZEISS JENA FLEKTOGON 35mm/F2.4 + Kodak PORTRA 400vc

1月に入ってから「トロン:レガシー」「キック・アス」「海炭市叙景」と続けて観た。2月から(うまくいけば)あまり身動きのできない日々が始まるので、その前に水分を補給するように映画分を補給。

それぞれに面白い映画だったのだけど、「海炭市叙景」について少し。

もともと熊切監督の映画は得意ではなくて。「鬼畜大宴会」に友人が出ていたのを皮切りに縁はあるのでなんだかんだと観てはいるのだけど、何故かいつも途中で辛くなってしまう。暫くしても印象には残り続けているし嫌いというのとは違って、うまく言えない苦手感がずっとあった。

そして「海炭市叙景」。上映館の第七藝術劇場の雰囲気にも助けられていつもより柔らかい気持ちで観始める事が出来た。

ざらついた生々しい色。そのやすりみたいなざらつきは、今回も私の心にアスファルトの上で転んだ時のような擦り傷を感じさせる。でも、嫌ではなかった。

私は北海道ほどでは無くても北の、雪が積もる町で生まれて育った。そして雪の積もらない街に越してもう18年になる。雪は決して綺麗なだけではない。降っているその時や積りたては綺麗だけれど、やがて泥や車の排気ガスに汚れて黒い塊となる。ふわふわだった雪は昼間に陽にあたって溶けかけては夜にまた凍り、道を堅く覆う。雪が多く降る季節には、青空は少なく低い雲が街の色彩を鈍らせる。

そこに住む人は、降ったばかりの雪に染まる真っ白な世界と、そんな暗い色の街を知って生きている。

雪の積もらない街に越してきて、私は暖かい場所で育った人を好きだと思った。「愛されて育った子は強い」そんな風に。

それでも冬になるとあの厳しい雪に埋まる町を思いだす。夜中、雪が降った朝は音が雪に吸い込まれて、いつもよりしんとしている。

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Bessaflex TM + CARL ZEISS JENA FLEKTOGON 35mm/F2.4 + Kodak PORTRA 400vc

映画の話。エンディング近いそれぞれの物語が交差するシーン。リアリズムに徹していた情景が少しだけ色を変える。「再生の物語」とか私にはわからない。ただ時は否応なしに流れていくし、人は子供のままではいられない。誰もが自分の物語を持っている、なんて言うと陳腐だけど事実そうで。そして自分は誰かの人生の脇役にしかなれない。それは悪いことではなくて、ただそうである、ということ。

だから、まっとうしよう。まっとうしたい。自分の物語を。誰かの人生の脇役を。雪に埋まる町、排気ガス、すれ違い、低い雲、音が雪に吸い込まれる朝。