少し前にPHOTO GRAPHICAという雑誌を買いました。写真家さんには詳しくないのだけれど森山大道特集。フィルムで撮る写真とデジタルの写真の違いについてのインタビュー記事があって興味深かったです。技術的な話ではなく、銀塩とデジタルでは「記憶の質」が違うという話。
とても個人的な「記憶」の話。
一時期、嘘みたいだけど記憶を失くすという経験をして。今でもあの頃のことを思い出そうとしてもひどくぼんやりしていたり、全く覚えていないことが多くて。その頃の話をする友人に「忘れたの?」と驚かれることがあります。「忘れたい嫌な記憶」を遁走と言う形で忘れているわけではなくて、覚えていたかった楽しかったこともすっぽり記憶の中から抜け落ちていて。
そして今も時々自分はやっぱり忘れてしまうのではないかと、自分の記憶のシナプスの繋がらなさにゾッとすることもあります。
指の間から掬った砂がさらさらと零れ落ちるように。
銀塩とデジタルの記憶の質の違い。銀塩は記憶の質が重くて、デジタルは希薄。そしてデジタルのカラーはいかがわしくて人工的で。私がデジタルからなかなか銀塩やモノクロームに移行できないのは、その希薄でいかがわしい「記憶」と「色」が好きなのかな、と。すぐ捨てられるような、でも心の片隅に掠って、匂いが少し残るような。
夜の底で、朝方に見る色つきの夢のような。
ふと、写真やテレビに「色」が無かった頃に思いを馳せました。「色」に対する思い入れが今とは確実にどこか違っていたんでしょうね。
あの頃の人たちは今の人よりも、頭の中に焼き付けるという作業が上手かったのかな。